全5回のシリーズ、中小オフィスビル経営者向けにお送りしている「ビル経営における5つの間違い」ですが、今日は3回目です。前回はコスト削減において「お客様にとっての価値を下げるコスト削減」の問題点について解説しました。オフィスビル経営はお客様であるテナントに「快適なビジネスの場」という価値を提供し、その対価として賃料をいただきます。その価値を下げるコスト削減は当然、不満や退去に繋がるという話でした。そこで今回は、価値を提供するお客様との接点について考えてみましょう。
間違い③:お客様との接点を放棄している
たとえば、毎月の賃料をいただくために請求書を発行しますよね。単に請求書を渡せばいいのなら郵送で済みます。あるいは、デジタル化に積極的なお客様なら「PDFファイルをメールで送ってもらえばいい」というケースもあるでしょう。貸しているビルが遠方にあれば、テナントを訪問して手渡しするのに時間も交通費もかかります。このご時世では「効率が悪い」という発想になるかもしれません。
しかし、先のように「貸しビル業=サービス業」だと考えるとどうでしょうか? これは話が変わってきます。請求書を渡す行為は、テナントを訪問しお客様と対面でコミュニケーションをする”理由”になるのです。一見、効率が悪いように見えますが、この方が結果として効率的なオフィスビル経営ができます。なぜなら、お客様とのコミュニケーションが増えれば、ビル経営における協力も得やすくなるからです。
ビル経営における「ザイアンス効果」の活用
人は同じ人物に接する回数が増えるほど、その人物に対して好印象を持つようになります。この現象は、1968年にアメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが広めたことで「ザイアンス効果」と呼ばれています。サービス業としてより多くの価値を提供するためには、お客様との接触頻度を増やすのは大切なこと。毎月発生する賃料請求のタイミングは、お客様を訪問する大切な機会です。困りごとも直接聴くことができます。事業で利益を生み出すのは人と人との繋がりです。
それなのに、効率化を重視するあまり、お客様と接する機会を放棄するのはとてももったいないと思いませんか?「アンケートを取っているから問題ない」と言う人もいるかもしれません。しかし、形式的なアンケートを年1〜2回行うよりも、日常の現場で直接お客様の声を聴く方が本音を話してもらえる確率はずっと高いです。その行動は、顧客満足度を高めることにつながります。
テナントの不満が溜まるビルの特徴
インターネットはもちろん、最近はAIの進化も目覚ましく、オフィスビル経営においても各種数値の分析、集計が早く正確にできるようになりました。単純作業、重要度の低い業務をテクノロジーの力で効率化するのは素晴らしいことです。しかし、効率化を求めるあまりに、せっかくのお客様との接点を減らしてしまい、テナントの情報を得る機会を失ってはいないでしょうか?
お客様であるテナントの声を無視して目先のコスト削減目標の達成を最優先する、業務委託費を下げるために無理やり作業時間を短縮する…こうした行動が不満や退去に繋がるのは既にお伝えしたとおりです。オフィスビル経営における業務の効率化は素晴らしいことです。ただ、それによって捻出された時間は、お客様に与える価値を高めるテナントサービスの向上などに使う方が賢明ではないでしょうか?
―寿防災工業 安永周平―
追伸:
次回は、協力会社を選ぶ際の注意点について解説予定です。