消防法では、マンションやホテルなどの建物は「防火対象物」と呼ばれています。防火対象物には建物だけでなく、山林や船舶なども含まれるのですが…その多くは建物です。中でも、不特定多数の人が出入りする建物は特に危険性が高いため「特定防火対象物」と呼ばれており、消防法上の厳しい基準が設けられています(それ以外のものは「非特定防火対象物」と呼ばれます)。たとえば、ホテルや旅館は不特定多数の人が出入りするために特定防火対象物となりますが、マンション(共同住宅)は長期間住んでいる入居者の利用が主なため非特定防火対象物となります。

他にも、具体的にどのような建物が特定防火対象物に当てはまるかは「消防法施行令別表第1」に記載されています。この表、分類が細かくて少し分かりづらいのですが、先のように「不特定多数の人が出入りするかどうか?」に加えて「なぜ危険度が高いのか?」を理解しておけば、ほとんどは判断できるようになります。たとえば、以下の特定防火対象物ですが…

「特定防火対象物」に分類される建物

(1) 劇場、映画館、演芸場、公会堂など。

劇や映画に夢中になり、利用者が火災に気付きにくいために避難が遅れる可能性があります。

(2)キャバレー、カフェ、ナイトクラブなど。遊技場、ダンスホール、風俗店舗など。カラオケボックス、インターネットカフェなど。

火災が発生しても、利用者が気付きにくいために避難が遅れる可能性があります。

(3)料理店、飲食店など。

食事に夢中になっていると、利用者が火災に気付きにくいために避難が遅れる可能性があります。

(4)ホテル、旅館、宿泊所など。

旅先で一夜限り泊まる客は、避難経路などを把握しておらず、火災発生時に逃げにくいので危険です。

(5)病院、診療所など。老人福祉施設、養護施設、幼稚園、保育所など。

病人、高齢者、乳幼児、要介護者・身体障害者などは、火災発生時に自力での避難が困難なため危険です。

(6)蒸気浴場、熱気浴場(サウナ)など。

サウナの中はもともと高温であるため、火災も発生しやすく危険です。

(7)複合用途防火対象物(一部に特定用途部分があるもの)

1つの建物の中に、特定防火対象物に分類される部分があれば、全体を厳しい基準に合わせる必要があります。

(8)地下街、準地下街

地下街などは閉鎖的な空間で、入り組んでいる場合もあるため、火災発生時に逃げにくいので危険です。

このように、不特定多数の人が出入りする建物では上記のような危険な理由もあって、消防設備の設置基準がより厳しい「特定防火対象物」に分類されます。一方で、マンション(共同住宅)などは長期間に渡って入居している人が利用するため、特定防火対象物には分類されません。

「非特定防火対象物」に分類される建物

(1)寄宿舎、下宿、マンション(共同住宅)など。

寄宿舎や下宿、共同住宅の利用者は長期間そこに住んでいる人々で、火災が発生しても避難経路をよく知っています。

(2)小学校、中学校、高校、大学など。

小学生以上の児童や生徒は、自力での避難が期待できます。

(3)図書館、美術館、博物館など。

劇場などと違って、利用者がみんな静かにしている場所なので、避難を呼びかけた際もすぐに気付いて避難可能です。

このように、消防法上の「特定防火対象物」に分類されるかどうかにも、根拠となる理由があることがわかりますね。それを踏まえたうえで、改めてコチラの表を見てみると納得できることも増えているのではないかと思います。

ここ数年「民泊」で消防法違反が相次ぐ理由

ちなみに、ここ数年で増えた民泊で消防法違反が相次いでいるのは、非特定防火対象物であるマンションと特定防火対象物であるホテルで必要な消防設備が変わるからです。民泊は宿泊を伴いますから、本来であれば「ホテル」であり特定防火対象物に分類されます。しかし、実際に宿泊施設として使っているのはマンションは非特定防火対象物ですから、必要な消防設備が設置されていないケースが多いのです。マンションなどの共同住宅を民泊で利用すればホテル・旅館の扱いとなり、より厳しい基準の特定防火対象物に分類されます。宿泊者の安全を確保するために、民泊を事業展開する会社はこの点を遵守する必要があります(参考:民泊における消防法令上の取り扱い等)。

以上、マンションとホテルの消防法上の違いについて解説させていただきました。不特定多数の人が出入りするホテルは、マンションよりも消防法による消防設備の設置基準が厳しくなります。特に建物を民泊で使用するオーナー様、管理会社の方はご注意ください。その他、ご自身では判断がつかないケースなどはお近くの消防署に相談してみてください。また下記よりお問い合わせいただければ、弊社の担当が追って連絡させていただきます。